横浜国立大学素粒子理論研究室

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セミナー概要

当研究室では、外部研究者によるセミナーを不定期で開催しています。
日程:月曜日の16:00~ (不定期開催)
場所:総合研究棟 W棟 7階701号室 (詳細は アクセス)

2024年度

4月26日 金曜日 15:00 ~

須釜 祥 氏 (横浜国立大学 D1)

ニュートリノ振動におけるパラメータ縮退の再考

素粒子物理学における標準模型は、素粒子実験の多くを説明することのできる理論である。 しかし、標準模型では説明できない現象も多く観測されており、標準模型を超える物理の探索は現在の素粒子物理学における重要な課題の1つである。 標準模型においてニュートリノは質量がゼロの素粒子として組み込まれている。 ニュートリノ振動はニュートリノに質量があることによって生じる現象であるため、標準模型を超える物理の1つである。 また、ニュートリノには弱い相互作用のみが働き、観測が難しいため未だ謎が多い素粒子である。したがって、ニュートリノを用いた研究では様々な新物理の探究が期待される。

現在までのニュートリノ振動研究では、ニュートリノ振動を特徴づけるパラメータの測定が行われてきた。 標準的な3世代のニュートリノ振動は、3つの混合角\(\theta_{12}、\theta_{13}、\theta_{23}\)と2つの質量2乗差 \(\Delta m^2_{21}、\Delta m^2_{31}\)、そしてCP 対称性を破る位相\(\delta \)の6つのパラメータによって表される。 これまでの実験で\(\theta_{12}、\theta _{13}、\Delta m^2_{12}、\Delta m^3_{12} \)についてはかなり精密に決定されている。 しかし、\(\theta_{23}、\delta、\Delta m^2_{31}\)の符号については未だ精密な決定はされていない。

ニュートリノ振動研究における最終的な目的は CP位相\(\delta \)の決定である。 しかし、実験によって振動確率を測定しても \( \theta \)以外のパラメータが一意に定まらず、縮退が生じてしまうパラメータ縮退という問題が指摘されている[1][2][3][4]。 その縮退解それぞれによって\(\delta \)の値が異なるため、この値の決定のためにはパラメータの縮退問題を解決することは非常に重要である。 現在では\(\theta_{13}\)が精密に決定されたことにより、\(\theta_{13}\)の縮退は、追加の\(\theta_{23}\)の縮退に置き換わった。 そしてこの\(\theta_{23}\)の縮退は、P(\(\nu_\mu \to \nu_e\))、𝑃(\(\bar{\nu}_\mu \to \bar{\nu}_e\))から得られる(\(\sin^2 2\theta_{13} , 1/ \sin^2 \theta_{23}\)) −平面上での2次曲線と𝑃(\(\bar{\nu}_e\to \bar{\nu}_e\))と𝑃(\(\nu_\mu\to \nu_\mu\))、𝑃(\(\bar{\nu}_\mu\to \bar{\nu}_\mu\))の情報を組み合わせることで、解決される可能性がある。

本研究では、パラメータ縮退が T2HK[5]、DUNE[6]、T2HKK[7]、ESS\(\nu\)SB[8]の4つの実験でどのような振舞いをし、縮退問題が解決可能かどうかを解析的に議論した[9]。


参考文献:
[1] G. L. Fogli and E. Lisi, Phys. Rev. D 54, 3667 (1996) [arXiv:hep-ph/9604415].
[2] J. Burguet-Castell, M. B. Gavela, J. J. Gomez-Cadenas, P. Hernandez and O.Mena, Nucl. Phys. B 608, 301 (2001) [arXiv:hep-ph/0103258].
[3] H. Minakata and H. Nunokawa, JHEP 0110, 001 (2001) [arXiv:hep-ph/0108085].
[4] V. Barger, D. Marfatia and K. Whisnant, Phys. Rev. D 65, 073023 (2002)[arXiv:hep-ph/0112119]
[5] K. Abe et al. [Hyper-Kamiokande Proto-], PTEP 2015 (2015), 053C02doi:10.1093/ptep/ptv061 [arXiv:1502.05199 [hep-ex]].
[6] R. Acciarri et al. [DUNE], [arXiv:1512.06148 [physics.ins-det]].
[7] K. Abe et al. [Hyper-Kamiokande], PTEP 2018 (2018) no.6, 063C01doi:10.1093/ptep/pty044 [arXiv:1611.06118 [hep-ex]].
[8] A. Alekou et al. [ESSnuSB], doi:10.3390/universe9080347 [arXiv:2303.17356 [hep-ex]].
[9] S. Sugama and O. Yasuda, Phys. Rev. D 109, no.3, 035007 (2024)doi:10.1103/PhysRevD.109.035007 [arXiv:2308.15071 [hep-ph]].