横浜国立大学素粒子理論研究室

2022年度セミナー情報

基本的にセミナーは金曜日の16:00~,総合研究棟 W棟 701号室で行います。 過去年度のセミナーは以下を参照ください。


ミューオニウム-反ミューオニウム転換と素粒子模型

講師:上坂優一氏(九州産業大学)
日時:2月 28日(火)16:30〜 注意:普段と曜日・開始時刻が異なります。
概要:ミューオニウムは反ミューオンと電子の束縛状態である。ミューオニウム-反ミューオニウム転換は、標準模型が持つレプトンフレーバー数の保存を破る過程で あり、新物理探索に有効であると考えられている。新しい探索実験が日本のJ-PARCや中国のCSNSで計画されており、今後のさらなる注目が予想されている。 我々は、次世代のミューオニウム-反ミューオニウム転換探索実験において、他の実験による制約を逃れつつ、どのような素粒子模型が検証できるのか調べた。 本講演では、ミューオニウム-反ミューオニウム転換実験で検証可能なニュートリノ質量模型に対する解析をいくつか紹介する。



Matter-antimatter asymmetric production during preheating

講師:榎本 成志 (中山大学)
日時:2月10日 (金) 16:00~
概要:In this talk, we discuss the dynamics in which the non-perturbative particle production and the generation of the matter-antimatter asymmetry simultaneously due to an oscillating background field. This type of scenario can occur if the theory has an oscillating background field coherently similar to an inflation field and has CP-violating parameters. As examples of such scenarios, we introduce a leptogenesis scenario at the high scale $\sim 10^{14}$ GeV and a baryogenesis scenario at the low scale $\sim 100$ MeV.



自発的に破れた\(U(1)_{L_\mu - L_\tau}\)ゲージ対称性の加速器実験での検証可能性

講師:野村敬明(四川大学)
日時:2月3日 (金) 16:00~
概要:新しいU(1)ゲージ対称性の導入による素粒子標準模型の拡張はシンプルな可能性の一つとして魅力的である。その中でもレプトンフレーバーに依存した\(U(1)_{L_\mu - L_\tau}\)ゲージ対称性は現象論的模型の構築によく用いられ、 このゲージ対称性から出てくるZ'ボソンの現象論についても幅広く調べられている。このセミナーで\(U(1)_{L_\mu - L_\tau}\)ゲージ対称性に関する模型等についてレビューし、さらに加速器実験での検証可能性について議論する。特に新しいゲージ対称性が自発的に破れる場合にはZ'ボソンに加えて新しいスカラーボソンが存在するはずなので、 それら二つの新しいボソンの実験におけるシグナルについて考える。



Super-Kamiokand検出器を用いた天体現象起源ニュートリノ探索結果と今後の展望

講師:中野 佑樹 氏 (東京大学 宇宙線研究所)
日時:12月16日 (金) 16:00~
概要:スーパーカミオカンデ (SK) は 50ktonの水チェレンコフ検出器であり、自然由来の太陽、大気ニュートリノ観測、人工的なニュートリノ観測 (T2K実験)、陽子崩壊探索などを実施している。 2018年に検出器の超純水を抜き、検出器の改修工事を実施し、2019年1月に観測を再開した。その後、超新星背景ニュートリノ探索に向けた感度向上のために、2020年7月にガドリニウムを超純水に溶解させ、現在も観測を継続している。 本講演では、SK実験の観測データから天体現象起源のニュートリノ探索 (特に太陽フレアニュートリノ arXiv: 2210.12948) に関する結果をいくつか報告する。 最後に、2020年から開始したGd溶解後の観測データの展望について報告する。



Cosmic Neutrino Background

講師:山口 昌英 氏(東京工業大学)
日時:11月25日 (金) 16:00~
概要:We discuss cosmic neutrino background (called CnuB). First, we present the current constraints on the abundance of CnuB, after reviewing the standard Big-Bang cosmology. Next, the accurate (theoretical) estimation of the abundance of CnuB as well as its spectral distorsion is given. Finally, we discuss the possibility of direct detection of CnuB by mentioning the so-called PTOLEMY-type experiment.



原子分子光物理(AMO物理)の基礎物理への貢献ー光時計を中心に

講師:赤松 大輔氏(横浜国立大)
日時:9月26日 (月) 14:00~注意:普段と曜日・開始時刻が異なります。
概要:AMO物理は原子分子分光により量子力学を生み出し、その理論を常に実験的に検証することで量子電磁気学にまで昇華させた。そして、その後の標準理論の礎を築いた。このように人類の知の最前線を押し広げる事に大いに貢献してきたAMO物理であるが、これはその超精密測定技術のおかげである。 近年開発された光格子時計や単一イオン時計により原子・イオンの遷移周波数を18桁の精度で調べることが可能である。18桁の精度を持つ実験装置を使い、これまで同様に人類の知の最前線を広げようという研究が各国で行われている。 本講演では、イントロ的な話から始めて実際にどのような実験が行われているか、いくつかの実験をピックアップして紹介する。



超精密「原子核時計」で探る基礎物理

講師:吉村浩司氏(岡山大)
日時:9月26日 (月) 16:00~注意:普段と曜日・開始時刻が異なります。
概要:数千種類ある原子核の中で,原子番号90の元素トリウム229のみがeV程度の特異に低い励起準位を持ち,コヒーレントなレーザー光による操作可能な唯一の原 子核として注目されている。原子核は,原子内電子の遮蔽により外場の影響を受けにくいためレーザーによる制御が可能になれば、最先端の原子時計を上回 る精度の「原子核時計」が実現でき、それを用いた微細構造定数の恒常性の検証など基礎物理への応用も期待されている。 その利用には,実際に励起準位を観測してそのエネルギーをレーザー励起可能な精度で決定する必要がある。30年以上にもわたりその励起準位の存在すら 確認されていなかったが、2016年にドイツの実験グループが内部転換電子を用いて初めて観測して以来、これまで謎につつまれていた励起準位の解明が急速 に進み、原子核のレーザー励起、そしてその先の原子核時計の実現が目前に迫りつつある。 本セミナーでは、最近の原子核時計研究の動向と今後の展望についてのべ、究極の原子核時計が実現された際の基礎物理への応用について解説する。



ゲージ・ヒッグス大統一模型のフェルミオン質量と大統一スケール

講師:矢田貝 祥貴氏(大阪公立大)
日時:7月29日 (金) 15:00~
概要:ゲージ・ヒッグス大統一模型とはゲージ場とヒッグス場を余剰次元で統一するゲージ・ヒッグス統一模型の枠組みで、大統一模型を構成する模型である。 本講演では最近発表した、SU(6)ゲージ・ヒッグス大統一理論におけるフェルミオン質量(arXiv:2207.10253 [hep-ph])とゲージ結合定数の統一(arXiv:2205.05824 [hep-ph])の話を中心に行う。



Roles of DM halo for indirect searches

講師:広島 渚氏(富山大学)
日時:7月8日 (金) 15:00~
概要:暗黒物質の重力束縛系であるハローは観測されている宇宙の構造の起源である。 その形成過程について考察することで、暗黒物質の性質について大局的な示唆が得られることに加え、 現在の宇宙におけるハロー構造を解析することはガンマ線等の観測を通じた対消滅シグナルの探査を進める上でも重要である。 本講演では暗黒物質の構造形成について準解析的モデルとその様々な適用について紹介する。



ノイズあり量子コンピュータを用いた期待値推定の効率化

講師:甲田昌也 (QunaSys)
日時:7月6日 (水) 16:00~ 注意:普段と曜日・開始時刻が異なります。
概要:近年、量子デバイスの技術的な進展に牽引されて NISQと呼ばれるノイズあり量子コンピュータを用いたアルゴリズムの研究が盛んに行われている。 その中でも特に注目されているのが変分量子固有値ソルバー(VQE)と呼ばれる、ハミルトニアンの基底状態とそのエネルギーを近似的に求めるためのアルゴリズムである。 VQE では、量子回路で実現された変分アンザッツ状態に対してオブザーバブルの測定を繰り返し行うことにより、ハミルトニアンの期待値の推定を行う。 そうして得られる推定値には測定回数に依存した統計揺らぎが存在するが、VQE による計算を高精度かつ効率良く行うためには、この統計揺らぎをなるべく少ない測定回数で十分に小さくすることが重要となる。 本講演では、変分量子アルゴリズムのレビューを行った後に、arXiv:2112.07416 で我々が提案した期待値推定のための新手法を紹介する。



超重力理論への超共形アプローチ

講師:九後 汰一郎氏 (京都大学)
日時:6月24日 (金) 13:00~14:30、15:00~
概要:最後の時空対称性であるSupersymmetry(超対称性)の局所ゲージ理論が超重力理論 である。まだ実験的証拠はないが、標準模型を越えた向こうには超重力理論が必ず存在するものと 思われる。標準模型はこの世界が基本的にスケール不変であることを示唆しているが、超重力理論 の背後には、スケール不変性の超対称版である超共形不変性が存在する。超共形不変な作用の 一般的構成法を与えるSuper Conformal Tensor Calculus(超共形テンソル算法)は、 知られている種々な超重力理論を統一的に導き、また実用的にも強力な道具を与える。この講義 ではこの超共形テンソル算法を紹介する。



カオスのエネルギー上限

講師:橋本幸士氏 (京都大学)
日時:6月10日 (金) 13:00~14:30、15:00~17:00
概要:すべての古典的および量子的ハミルトニアン力学と場の理論で成立するようなリャプノフ指数の エネルギー依存性の上限として、カオスのエネルギー上限、という仮説を提案した。この仮説では、 リャプノフ指数\(\lambda(E)\)は高エネルギー極限で全エネルギーEの1次より早く増加しない、すなわち \(\lambda(E) \propto E^c (E\to \infty)\)なるcがc≦1を満たす。カオスのエネルギー上限は、out-of-time-order correlatorの熱力学的無矛盾性から導かれ、ハミルトニアンについての妥当な物理的条件下で、 すべての古典および量子系、そして有限のNおよび大きなN(Nは自由度の数)について成立する。 カオスのエネルギー上限は、我々の知る限り、既知のすべての古典的カオスを与えるハミルトニアン系で 成立し、また、Maldacena, Shenker, Stanfordが発見した大きなNの量子系でのカオスの上限 と整合する。この仮説を支持する例として、古典的カオスである一般的なビリヤードと多粒子系を取り 上げる。カオスのエネルギー上限は、物理系や宇宙に本質的な制限を与える可能性がある。